娘の願いを叶えられた話
ある日の事。夕飯の時に娘が言った。『パパ。こんどの日曜日にアップルパイ焼いて。』
これが娘の願いだった。
『何で?!』って私が訊くと『今度の日曜日に友達がうちに遊びに来るの。その時、皆がパパが作ったアップルパイが食べたいって言っているの。』と彼女が言った。
私が作るアップルパイが食べたい?!
何度か娘の友達に焼いてあげたことはあったから、その話が拡がったのか、娘が広めたのかは定かでは無いけれど、まあ、期待してくれることにはありがたかった。
次の日から私は、アップルパイの材料や作るための道具を準備し始めた。病気になる前までは良く作っていたけれど、ここ最近はあんまりやってなかった。
娘が望むアップルパイは、私がいつも作るアップルパイなので、今まで通りのアップルパイじゃないといけない気がして、この準備が大変だった。
なにせ、何処にも一番肝心な紅玉と言う品種のリンゴが置いて無かった。大型のスーパーやホームセンターなど、果物が置いてありそうなお店を何軒も廻ったけれど、何処にもなかった。
リンゴなんて何でもいいじゃんと言われた気がしないでもない。
でも、他のリンゴじゃ煮詰めたときに崩れたり、甘すぎて味に締まりがないんだよ~。何度も試したもん。他のリンゴも、、、。
だから、紅玉なんだ。身がしっかりしていて、酸味があるからこそ煮詰めても決して甘すぎず、良い感じに甘みが出るんだ。
だから紅玉なんだ。
リンゴ探しも土曜日の夜になった。ここまで探したお店は10件以上。近所のお店はすべて行ったよ。でも、無かった。
あそこに行ってなかったら諦めるしかないかな・・・。
そう思って向かったのはいつも野菜を買ってる近所の八百屋さんだった。店に入るなり、目の前に『紅玉』の文字が!!!あったーと声を上げて手に取る私の姿をいつもの店員さんがきょとんと見る。恥ずかしさよりも達成感の方がまさっていた。
こうして、手に入れた紅玉で日曜日の朝から『アップルパイ』作りが始まった。こうして作るのはどれくらいぶりなんだろう。正直、この日は手の痺れが酷くて大変だった。前までと違う勝手、久しぶりのお菓子作り、娘のメンツもある。
もしこのアップルパイが子供たちの口に合わなかったら『お前の父ちゃんが作ったアップルパイ超不味い』とか言われたら、どうしようと思いながら戦々恐々だった。
子供たちが我が家でワイワイ遊びだして、『いい匂いがする~』とか言い出した。私の心拍数も上がっていたかもしれない。
そうして、焼きあがったアップルパイ。少し、オーブンの余熱が高すぎたかもしれないけれど、一口食べたら『美味しい!』と歓声が上がり。『お替りあるよ』と言えば私の前にいくつものお皿が差し出された。
あっという間になくなったアップルパイ。皿の上のアップルパイが無くなるスピードと子供たちの笑顔に救われた。『また、食べたくなったらうちにおいでね。』と私が言うと『は~い』と気持ちのいいお返事。
『○○ちゃんのお父さん、何でも出来て良いね。』そう娘の友達の言葉に娘の表情が少し誇らしそうだった。
数か月前までは、病院のベッドの上で愛する存在の為に何もできずに涙を流していた私。今日、こうして娘の願いを一つ叶えられることが出来て本当に良かったと思う。
ありがとう。
『パパは、君が一番大切なんだ。だから、君が望むことならば体がきつくても頑張るんだよ。君もパパがいない間頑張ったの知ってるから。パパも寂しかったけど、また、一緒になれるように頑張っていたんだよ』
そう言う私に『パパありがとう』と言う娘の言葉に何もかもが救われた気がした。
頑張ってよかった。頑張ろうこの子の為にって。
こんな私だけど、まだまだ、出来ることはあるんだって少し、勇気をもらった一日でした。
ありがとう。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。感謝いたします。